今回のスタッフトークでは、音楽担当の牛尾さんを迎え、山田尚子監督と映画「聲の形」の音楽づくりについてお話しされました。

日時:2016年10月13日16:30回上映終了後
会場:新宿ピカデリー
登壇者:山田尚子(監督)、牛尾憲輔(音楽)
司会:松竹 向井
※敬称略
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 今までどおり、ほぼ自分のメモ用にですがトークショーの様子を纏めてみました。一部聴き逃しやメモ間違い微妙なニュアンスの違い等あるかもしれませんが雰囲気だけでも味わって貰えたら幸いです。

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司会:ではまず挨拶をお願い致します。

牛尾:音楽担当の牛尾憲輔です。よろしくお願い致します。

山田:監督の山田尚子です、よろしくお願い致します。

牛尾:ド平日の日中にすみません。今回、スタッフトークあると知らず、普通に観に来られた方とかいらっしゃいますか?
(客席よりチラホラと手が挙がる)

山田:あ、そうか。舞台挨拶あるって知らない方もいらっしゃるんですね。

牛尾:素敵な映画を観た後で、こんなテンションですみません。もしこの後、用事ある方はこっそりお帰り頂けると傷つかずにすみます。

司会:明るいから(帰ってる人が居たら)分かりますよ。

山田:(牛尾さんは)カッコイイしゃべり方しはりますね。

牛尾:アーティストっぽくね。

司会:まずは牛尾さんに音楽を依頼した経緯について聞いてみたいと思います。

山田:パンフレットの対談でもお話ししていますが、映画「聲の形」をつくるにあたって、頭の中に「agraph」さんの事が浮かびました。
agraphさんというのは牛尾さんの個人ユニット……、でいいんですよね?

牛尾:個人ユニットです、友達いないんで……。

山田:agraphさんの音をつけたら絶対に良いとピンときて、自分の中では「聲の形」=agraphさんでした。
初対面が最悪でしたし、具体的な作家さんを挙げて音楽を発注するのは初めてなので勇気を出しました。

初対面はとあるライブで、共通の友人から牛尾さんを紹介して貰った時に、挨拶(腰を90度に曲げる山田監督の実演入り)して顔をあげたらそこに既に牛尾さんが居なくて、東京のミュージシャン怖いなと思いました。

牛尾:僕も、ここで山田尚子監督に冷たい態度を取られたら、もう作品が観られないということで……。

山田:作品見てくださってると聞いて、怖いけど「聲の形」にはあの方の音楽が欲しいと勇気を出してお願いしました。

司会:2回めにお会いした時はどうでしたか?

山田:いい人でした。

牛尾:面白い人でした。

司会:音楽の発注や、監督の拘ったテーマは何でしょうか?

山田:今回は、お互い作品をどうつくっていくかから話していきました。

牛尾:打ち合わせ後にすぐ「lit」が出来ました。打ち合わせでは、周りのスタッフが?となるような話しばかりしました。「極限」の話(註:パンフレットP18参照)をしてコレだとか。

司会:シーンごとに、ここにはこういう音楽を〜といった形ではなかったんですね。

山田:コンテがあがったところから牛尾さんに送りました。

牛尾:僕も、その時に音楽をつくっていたので、コンテをあえて紙で送って貰いました。

山田:音楽も同時進行で進めていきました。

牛尾:そのコンテを譜面台に立てて、音楽をつくっていきました。

山田:何喋ろうとしたか忘れたんで、何か話してて下さい。

牛尾:無茶振り……。
監督にもレコスタに入ってもらい、仮の映像に音楽をハメていく作業もしました。
具体的な曲のテーマやシーンの発注もなく、音響監督のやるようなこともやりました。

そうだ、この場で糾弾したいことがありました。
小学校の将也のイメージは「ハンバーグ」でという演技指導したと美談にしているでしょう。

山田:何で知ってるんですか?

司会:舞台挨拶で話してますね。

牛尾:あれは、まだ実家で音楽つくってた時に、部屋でラフな格好で音楽つくってたら母親から「ケンちゃん晩ご飯何にする?」って聞かれて「あー、もうハンバーグ」って話をして、それを使われました。ワシの手柄やで。

山田:そうなんですよ、バレてしまった……。
将也をつくったのは牛尾さんです。

牛尾:京都のトークショーでもありましたが、将也の手は僕の手なんですよ。

山田:(キャラクターデザインの)西屋さんが、将也に相応しい、優しい繊細な手を探してて、インターネット上で、ちょうど牛尾さんのライブ映像があがっていて、「この人が音楽担当なのか」「手がキレイだね」と話してて、その後大垣に1週間こもって帰ってきたら、西屋さんの周りに牛尾さんの手がずらっと並んでました。

牛尾:インタビュー写真がバーっと並んでましたよね。
西屋さんにお会いした際に「ほんとキレイですよね」と言われました。

山田:音楽プロデューサーの中村伸一さんも打ち合わせしてる時に「牛尾さんの手キレイですよね」と。
男性をとりこにする手。
その手でピアノ弾くとかズルいですよ。

牛尾:はじめて言われました。
ありがとうございます。

司会:京都でも言ってたんで事実確認になりましたね。

牛尾:音楽では、ピアノの中に居る気がしませんでしたか?
劇場はスピーカーに囲まれてるんで、アプライトピアノの蓋をあけて録音して、それぞれのスピーカーから別々の音が出るように調整しています。
荒く触ったら壊れそうなイメージです。

山田:「聲の形」は将也の物語で、内面にどんどん入ってくようなイメージです。
また硝子の物語でもあるので、体の中で脈打つ鼓動や大きな低音を体中で浴びられたらというイメージです。

牛尾:ちゃんとソリッドに取り込まれてて良かった。

インタビューを受けることって作品を殺す作業で、作品に込めた思いを言葉にすると、それが正解になってしまい、それ以上の意味をもたせられなくなるが、滲んだ、ぼやけた状態でつくれて良かった。

山田:自分も言葉で固定してしまうのが嫌で、一つのものに一つの意味ではなく、周りのものも含めた色んな意味を観て欲しいというのが、自分のフイルムづくりです。

司会:山田監督がラストシーンで悩んでいた際に牛尾さんも悩んでいたそうですが。

山田:会社周りを散歩しながらラストシーンをどうするか悩んでまして、ある時急に、将也が入ってきた瞬間があって、そこに向かって映画をつくっていこうと決めることができました。
一度、京都で牛尾さんと打ち合わせした際に、私が閃いた小さい河原を紹介しました。

牛尾:文化祭での、将也の周りの人の☓が取れたシーンまではかけたが、その後がかけなかった。
河原が凄く良くて、丁度その時は小雨が振っていて、ある人は傘をさし、学生が居てと色んな人が居て、あ、こういう優しい世界があって、もう一度将也に収束していって良いんだなと分かり、将也と同じように泣いてました。
京アニスタッフがよく通る道で、さっき打ち合わせしてた人が、道で泣いてるのを見て、おかしな人だと思われたと思います。

ピアノの雑音も表現しようと、鼻息なんかも入っています。
音響解析を駆使して、ずっと細かい調整をしてノイズを選別していました。
外のコオロギや鈴虫の音も入っていますし、猫の足音も入っています。

山田:「ケンちゃん晩ご飯どうする?」は入っていないの?

牛尾:そこは入っていないです。
これから、もう一度レイトショーでその辺も確認して貰えたら。
おばあちゃんのお葬式のシーンでもノイズが入ってる。

山田:そう、ノイズでリズムをつくっているの良いですよね。

牛尾:最後に不要なノイズが入っていないかチェックした後に、スタッフに「一部ノイズが入っていますが必要な生きたノイズです」とお伝えしたら「全編にノイズ入っていますよ」と返されました。

山田:全身の毛穴から音を感じてますね。

牛尾:レコーディングスタジオで音をつくった後にも、映画館的なスタジオで(各スピーカーからの音を確認しながら)音をつくっていきました。
コンセプトから入って、最後のお疲れ様まで携わりました。
発注された曲を納品してオシマイにはならなかった。

曲をつくっていく上で、山田さんのアイデアが元になったのもありました。
病院で将也が目覚めるシーンのノイズは2人でアイデアを出して、左右(のスピーカー)で音を(将也と硝子に分けるために)変えました。
僕も山田さんもある意味、劇伴の素人だから、素人ならではの発想だと思います。

司会:耳を澄ましてお聴き頂きたいですね。
最後に挨拶をお願いします。

牛尾:平日のお忙しいところありがとうございました。

山田:「聲の形」では音を大事にしたいと思っていたので、牛尾さんにお願い出来て、想像以上に素晴らしい音をつくってもらって、素敵な、純度の高い作品を皆様に届けることが出来て良かったです。
末永くお付き合い頂けたらと思います。
本日はありがとうございました。